聞き手 昔から、「物言えば唇寒し」なんてことも言ったりします。秋の風でもないんですが、なんかお金のいる話ばかりですね、最近。
ノーテンキな役人が年金不安をあおった
笹木 年明けから経済界の方が言い始めて、2004年ぐらいから毎年1%ずつ消費税を16%まで引き上げて、今に比べて11%の消費税を上乗せして社会保障費に使おうという提案をされました。小泉さんはそれに対して、自分が総理大臣をやっている間、あるいは最低でも次の選挙までは自分はやらないというような議論になっています。特に今日は年金の話をしたいと思います。
聞き手 消費税16%なんて事を言われても一万円の買い物して1,600円払わないといけない訳ですよね、消費税を。
笹木 この番組で税制の話をした時に、消費税だけが唯一まだ日本が他の国に比べると低いほうだという話はしましたけれども、最近いろいろなところで話をしていると必ず若い人から聞かれる質問というのは年金のことです。「毎月掛金払っているけれども、自分たちがもらう年齢になった時にちゃんともらえるのか」「何か破綻していると聞く」「払わなくても自分でやればいいんじゃないか」と。そういう意見をすごく聞くわけです。この年金の不安というのはすごく大きいわけですが、いつ頃から特に大きくなったかというと98年とか99年頃からです。これは何故かというと、あの頃、2000年に向けて年金をいろいろ変えようという、掛金とは別に国が負担している分、例えば基礎年金、基礎的な部分の1/3を1/2に上げようとか、そういう改革をやろうという時に、厚生省のお役所の方が「もう今のままでは大変なんだ」と。「受給年齢を60歳から65歳に上げないといけない」とか「かなり合理化しないとパンクするんだ」ということを、これは年金の掛け金を上げたい、そういう気持ちでいろいろなことを言ったわけです。そこで言っていたのは、「今のままだと2025年頃には厚生年金の掛金が17%から34%、2倍に上がる」とか、「そこまで必要になる」ということです。サラリーマン本人と会社側が半分ずつ、それぞれ17%払うわけですからすごい負担になる。厚生省はそういうことで年金を改革する、あるいは年金の財源をもっとたくさんもらえるようにするために、「今のままでは大変だ大変だ」といったわけですが、それを逆に国民とかメディア側は「そんなに大変なぐらい破綻しているのか」「34%も払ってその分ちゃんともらえるのか」ということで、年金に対する不安がこの98年99年にどっと上がってしまった。お役所が「大変だ大変だ」といえば、年金に関わる予算とか財源をたくさんくれるだろうということで、能天気に言ったことが逆に自分達に返ってきて、年金払わない人が増えたりした。これが99年頃のきっかけだったんですね。
聞き手 若い方でそういう意識を持っている方はたいしたものだと思うんですが、最近50台半ばくらいの方にお話を聞くと、どうしても年金というのが日々の話題、一番の話題になってくる。これはもう40代の方もそうでしょうし、それが若年層に及んでいるのだろうなという気もします。
掛け金合計の4倍もらえる
笹木 現状はどういうものかということなんですが、全国民、サラリーマンでない方も入る国民年金で、一人当たり月13,300円の掛金を払っているわけです。これは全員共通です。それを20歳から40年間掛ける。それよりも期間が短い場合には期間に応じてもらう額が減ります。この13,300円の掛け金を毎月払っていた人が、もらうときにはだいたい月65,000円もらえるようにする。というのが今の標準的な計画です。夫婦でしたらその2倍もらえるということです。サラリーマンであれば毎月17%ぐらい、会社とその働いている本人で半分ずつ払う。これについて、例えばサラリーマン本人と専業主婦の家庭で23万円を65歳からもらうということで計算しているわけです。だから実際はこの掛けている額ともらえる額でいえばそう悪くない。掛けている額の4倍以上国民年金でももらえるわけですから悪くないんですが、すごく不安をあおったということと、もうひとつ現時点ですごく問題があるのは、どれぐらい重いかということです。年金財政の全体に対する比率がどのくらい大きいかというと所得税、あるいは企業にかかる法人税、そういうのよりもずっと大きいわけです。例えば給料の明細書なんかを見ると所得税よりも医療保険、医療のための社会保険、健康保険、これに比べても年金の掛金が一番高いはずです。国全体の予算の中でいっても、例えば2000年ぐらいでいいますと、所得税の収入が15兆円ぐらいです。医療保険が17兆円。年金の保険料というのは所得税のだいたい2倍くらい、29兆9000億円。だから財政の中でもよく税制の話はありますが、国民から取る所得税の2倍、それぐらい大きい存在ですから、これを上げるとか下げるというのはすごく深刻な話ですし、もっと言うと企業にとっても、法人税よりずっと大きいわけです。さっき17%といいましたけれども、現状でもほとんどの場合企業が払っている法人税より年金の掛け金のほうがずっと大きいわけです。これがどんどん将来的に上がっていかないといけないという間違ったキャンペーンしたわけです。昔、イギリスが英国病といわれ、サッチャーで経済的に上向いたといわれますけれども、サッチャーはこの社会保険料というのをかなり減らす努力をしたんです。企業が払う社会保険料。いつも言うように企業が国を選ぶ時代ですから、放っておくと、介護も年金も医療保険もある、その制度はないよりはあったほうがいいけれども、そのコストがあんまり高すぎると。日本では人件費プラスいろいろなものが多すぎてコストが高くかかりすぎるということで、企業が逃げていく理由のひとつにもなる。企業にとっては法人税より今重いのがこの年金だということなんです。
聞き手 なるほど。そんなこともあって今年の年頭の辺りから、年金にかけるお金を消費税にしたらという話にすり替えられていく流れになっていくわけなんですね。
国民年金は、半分の人が掛金を払っていない
笹木 そこでどうして消費税かということなんですが、さっき大きく分けると全員はいる国民年金とサラリーマン層が入る厚生年金があるという話をしました。税金なんかもそうですが、サラリーマンというのは給料から掛金が天引きされるわけです。自動的に給料をもらう時に所得税であっても年金の掛金であってもちゃんと引かれていますから、これは逃れることはできないんですね。この制度がいいかどうかいろいろ議論はあるでしょうけれども。みんな払っている。国民年金というのはサラリーマンではない方が入っているわけですから、必ずしも払わなくても自動的に天引きされない。どのぐらいの方が払っていないかという話ですが、これは深刻で、おそらくこの2002年で国民年金の対象者、全部で2000万人を越えているんですけれども、その中で間違いなく50%、1000万人ぐらいに達している。所得が低いなどの理由で免除者となっている方もいますけれども、2000万人のうちだいたい1000万人、半分は実際に国民年金を払う対象の人が払っていないんです。これは今のままだと、払うべき人が払わないという理由でさらに破綻する可能性もさらに高まっているということなんですね。では払わなかったら現状ではどうなのか。例えば税金を払わないと過去にさかのぼって全部罰金を払えと厳しい制度がありますし、そういうことも実際ありますけれども、国民年金の場合、掛け金を払わないから財産を差し押さえられたというのは今まで何十年間で数件しかないんです。ですからなかなか罰則といっても難しいんですね。逆にそうだから払わない人がどんどん増えているわけですけれども、じゃあこれを税金のように検査をして払わせる罰則を新しく作ろうとしたら、そのコストが滅茶苦茶かかります。今現状でも電話で早く払ってくださいといったり、あるいは払わない人を訪問したり、そういうことで人件費もたくさんかかっています。国民年金で集めている額の10%、一割は払わない人に払ってくださいという運動するのにお金がかかっているんです。そういう深刻な問題があるので、これを消費税にすれば自動的に、消費税というのは物を買うたびに払うわけですから、消費税として例えば国民年金をまかなうようにすれば自動的に払うようになる。コストももう今ある消費税という体系の中でやるわけですから、そんなにかからない。これはかなりお役所的発想ですが。もうひとつ、65歳以上で年金をもらっている方は年金の収入に対して、一切もう掛け金を払っていないわけです。そうすると働いている世代だけが年金の掛け金を払う。もらっている世代、高齢者は一銭も払っていない。これは「お年寄りはもう働いていなくて収入が低いはずだ」という思い込みでやってきたわけですけれども、再分配、税金がかかって引かれる、年金をもらう人もいるし、もらっていない人もいる。医療費でたくさんお金をかけてその分恩恵もらっている人がいるし、恩恵が少ない若者がいる、再分配というんですけれども、その後の収入で考えますと、実際に貧しいのは65歳以上の方というよりも、30代、40代。ここが一番低いんです。税金と年金と医療、これのプラスマイナス全部計算しますと、65歳以上の方のほうがずっと額が高いんです。しかも数回前にここでお話したように、貯金も65歳以上の方が非常にたくさん持っている。もちろん非常に大変な方もおられると思いますが、案外そう貧しくない方も多いわけです。ですから「この層からもちゃんと年金の掛け金を取るべきじゃないか」という話がひとつあるわけです。これも消費税にするとそういう方にも掛けてもらえるということで、特にこれは企業経営者側から出てきた提案ですけれども、企業が国から逃げていかないためにこういう制度にしようということです。しかし一番問題は、じゃあ本当になるのかということです。ここが一番のポイントで、社会保障のために消費税を上げる、16%まで上げるといっているけれども、本当にそこに使うのか。この保証があるかどうかということです。
消費税増税で年金はよくなるのか
聞き手 そういうことですよね。これがはっきりと明確に見えなければいけないわけですから。
笹木 過去の経験で言うと、消費税を3%から5%上げたのが数年前です。3%から5%に上げる時にも、「これから年金とか医療、社会保障費が非常にかかるから5%まで上げる」といいました。2%分で4.8兆円だったんです。その4.8兆円が増えた年の次の年、何に使ったかというと、実際に社会保障費にちゃんと使われたのが0.5兆円、5000億円だけ。一割だけだったんです。後の9割は何に使われたのか。結局これまでの事業であったり、国債の、借金の利子に使ったり、あるいは減税をやったその税源に使われた。要はうやむやになっていろいろなことに使われてしまったんです。
聞き手 家庭の家計と一緒で、ちょっとしたボーナスが入ってくるからこれであれしようこれしようといっていても、なんか家のローンにまわってしまったり、どっかに消えてしまったり。これでは困りますよね。
笹木 しかもこれは放っておくと、お役所というのは絶対それをやろうとするわけです。自分たちが好きに使える財源がたくさん欲しい。もっといえばその中で無駄もいっぱいあったりするわけですが。だから放っておくと絶対こうなるわけで、これでは絶対やらせてはいけないということなんです。年金の集めた掛け金もすごい無駄もあったりするし、特殊法人とか天下りの無駄にもそれが使われたりします。もしその消費増税でやるというのなら、今年金でいうと国民年金が一番深刻なわけですから、これを全部税金でやろうよと。国民年金の分だけ。月、13,300円の掛け金です。全国民共通で13000円。これは消費税で、だいたい3.3%なんですね。3.3%払えば、誰も払わなくてよくなるんです。目に見えてわかるし、そういう議論をおこすのであれば、実際今の年金の中でどれだけ無駄があるんじゃないかとか、そういう議論までおこってくると思うんです。唯一許していいとすれば、この消費増税でこの分にはっきり使うんだと明言する。これはちゃんと計算もできますし、そういう計算をやっている専門家の方もいます。それをやったときには税とか年金とか掛金に対する興味も高まって、役所のほうもコスト感覚持つきっかけになる。そんな風に思うわけです。
聞き手 そうですね。役所のほうももちろんそうですし、国民の側からしてもそうですね。借金の返済にあたっちゃいましたとか不明瞭な事ばっかりされていては困るわけですからね。そのようなことを考えると年金。不安だけがちょっと先走っているところがありますが、それではいけなくて議論しなくてはいけない。
笹木 そうですね。とにかくコスト感覚を持って、国民がそれをわかるようにするということでしょうね。年金も税金も。