聞き手 さて、今日はどんなお話ですか。
笹木 今日は教育について。以前福井県でも色々な変化があるというお話をしましたが、その教育の2回目ですが。最近、総合学習とかの時間で、よく福井でも、一般の方ですよね、地域に住んでいる方に来てもらって、その仕事について話をしてもらったり、あるいは街づくりについて関わっている人に、あるいはボランティアをやっている人に話をしてもらったりとか、そんな授業が結構小学でも中学でも高校でも増えています。僕自身も小学でも中学でも高校でもやっているわけですが。よく僕ら、まあ年寄りとか我々もそうですけれども、今の子供は元気が無いとか色々なことをいいますが、ビックリしたのは、僕なんかが小学とか中学時代に比べて、こうやって、まあおじさんとかおばさんが、先生でない人が来て話をして、講演なんかしたときに、その後「質問ありますか」って言っても、そんなに出なかったんですよね、僕らの時にはね。で、これはいいなと思ったのは、結構率直に、おじさん相手にでも色々な質問とか結構挑発的な質問も出てきたりしましてね。で、これはいいなと。今言った、はっきり物を言う子も出てきてるんだなと思ったり、あるいは盛り上がらなかった時には確かにあんまり元気がなかったりということもありますが、それ何回か僕自身もやりまして。やっぱり教える側とか教える内容というのも大きいんだなと。僕自身が非常にのった形で、うまく率直に話せた、話が自分の人生とかそういうことについて、あるいは政治の話もしましたが、率直に自分の体験に即した話をした時には反応があった。だから教える側の問題も、あるいはその教える内容も大きいんだなあと。で、そんなことを感じたんですが。教育の自由化とかよくいわれます。で、福井でも高校が来年度からは、福井県全県下どこでも受験できるというふうになる学区制の廃止。自由化とよくいわれるわけですが、今日は教える内容についての自由化というか、色々な新しい実験が始まっている。
初の民間人中学校長
これは東京なんですが、杉並区で「よのなか科」という教科をやっている所があるんです。中学校です。杉並区立和田中学校という所ですけれども。で、ここは校長が、おそらく全国で初めてだったんじゃないですかね、中学で、公立の中学で校長先生としては民間の人になってもらったという第一号だったと思います。藤原さんという方が校長で、その方は元々はリクルートに勤めていた方ですが、一般の社員とは違う、フェローという制度を自分が提案してその第一号になった方なんですが、その方がその中学校の校長をしているわけです。で、「よのなか科」ということを言い出しまして、実験もしています。で、こういうことをやっぱり全国に広めたいと運動もやっている方です。その方と話をしていまして、最初に言ったのが、今の子供というのは縦の関係とまったくの横の関係しかないんだと。ここが問題だということをまず言われるんですね。縦っていうのは、もう今子供の数も少ないし、家ではやっぱり親と子という、まあいってみればやっぱり縦の関係が強いと。で、子供も少なかったり一人っ子も結構多かったりして、それが1対1の縦の関係であったりすると。で、学校行っても当然先生と生徒の縦の関係、まあこれが強いと。で、友達との関係は完全に横の関係で、しかも非常にうまく合う者とだけ付き合うという、そういう傾向が強くなっていると。で、まあその人も私と同世代なんですが、今47〜8ですかね。
斜めの人間関係を
自分らが子供の時には、例えば近所の近くのおじいちゃんとか、あるいは親戚なんかとも付き合いが多かったんだけれども、親戚の中にちょっと変わった人がいるとか。縦でもないし真横でもない。なんか斜めの関係といえるような、そういう地域であったり、そういう人がたくさんいたと言うんですね。完全な縦でもないし完全な横でもない。で、しょっちゅう会うわけじゃないけれども、なんか時々その人のことが気になったり、その人とのなんか交渉があったり。そういうのが今すごく弱くなっているということを言っていました。で、そういうのを地域としても社会としても作っていかないといけないというわけですが。で、今必要なのは色々な人と関係を作っていく力、これがすごく必要なんだと。で、「よのなか科」というのはそういう関係を作っていく、色々な人と関係を作っていくということ、これを最重要にしてやっていくんだというんですね。で、最も求められる能力というのは情報編集力、ちょっと難しいんですけれども。単に憶えるとか、単にたくさん知識を持っているとか、そんなことではなくて。よく社会で、あの人普通はそれ程そんなに頭がよいわけでもなくて、たくさん知識があるわけでもないけれども、本番に強いとか。何故かすごく成功するとか。何故かうまく金を儲けるとか。あるいは何故かすごく人に好かれるとか。
運と縁を引きよせる力を
運がいいとか縁がすごくあるとか、何故か縁を引き寄せるってこういう人いるだろうってその人言うんですね。で、自分がビジネスマンとして会社員としてやっていたときに、そういう人絶対いて、運がいいとか縁がいいとか。これは決してなんかこう偶然でもなんでもなくて、それはだいたい傾向を見ると、そういう関係を作るのが非常にうまい人だと。味方が多かったり、色々な相手と会話する力がすごく、自分の思いを相手にうまく伝えて、で、相手の心をひきつけるとかね。で、一緒に力を合わせてくれるとか。そんな力が強い人だというんですね。だからそういう関係性を作っていく人。運とか縁を引き寄せる力。これが情報編集力だっていうんです、その方は。単にたくさん憶えるのではなくて、その場の状況に応じて自分の持っている経験とか知識とか、それを組み合わせたり、総動員する。そうして自分の力を最大限に発揮する力だと。これが情報編集力だって言うんですね。で、そういうことをずっとトレーニングしたり勉強していかないといけないんで、それがあまり今の教育の中ではされていないから、世の中に出てみると何をやっていいかわからない。何をしたいかもない。で、なかなか応用も利かない人間が増えているんではないか。実際の授業なんかすごいのは、答えのない問題というのをどんどん生徒に議論させるんですよ。例えばこの番組でも取り上げましたけれども、クローン人間という問題が今出てきていますよね。もう技術的には実現が近いと。まあクローン人間どんどん技術的には造ることが出来る。しかしこれはいいのか悪いのか。これ社会としてもはっきり結論が出ているわけではないし、大人だって別に結論が持てているわけではないですね。
現代の実学「よのなか科」
あるいは安楽死。自分の親がもうこれ以上ずっと病院で寝たままの状態になるのは嫌だから、もしそういう状態になって安楽死をさせてくれといわれたら自分はどうするか。で、今少年の犯罪が増えているけれども、少年法を改正してもっと厳しくするのはどうか。自殺が増えているけれどもこの自殺、もし自分の友達がそういうようなことを考えていると思ったらどうするか。というのを徹底的にロールプレイング、その立場にたって役割をそれぞれ演じてみると。それで自分がどう考えるかを実際発表してみる。問題について議論したり、あるいは今言ったロールプレイングをしたり、そんなことをするわけですね。その子供の感想なんかを読みますと、ほとんど大人が考えているような論点、子供の簡単な言葉でではあるんですけれども、クローンの問題についてもほとんど出てきているんですね。ちゃんと材料を与えれば考える力持っているし、そういう力をどんどん鍛えようということなんですね。
聞き手 なるほど。こうなると本当に答えもないですし、それについての教科書もない。その方が何を考え、その方がどんな意見を引き出し、子供たちがどう答えるかって、まさにそうなっていくわけですね。
笹木 そうですね。で、この「よのなか科」では今言った難しい答えのない問題以外に、実学というか、実際の社会に即したハンバーガー屋さんの店長になってみて考えてみよう。はやる店はやらない店はどこが違うか、などとやっているわけですよ。まず専門家の方に来てもらって話をしてもらう。地元のベンチャー企業の方に来てもらって、高くても売れる商品というのはどういうものか。そんなこともやる。これ経済の時間ですね。経済に関わる「よのなか科」。あと自分の生活に関わる「よのなか科」。自分の家を設計するとしたらどんな家を造るか。これも実際に建築家の方に来てもらって、最初ちょっと話してもらってから、さっきと同じようなディスカッションとロールプレイングをやるわけです。子供部屋について、どういうふうに子供部屋を作るのが一番いいか。で、自分が市長になったらどういうふうにやったらいいか。これゲームのソフトが実際にあるらしいですが、それを使って、自分が市長だったらどうするか。
聞き手 ということは子供部屋から街づくりまで実学として考える。
笹木 そうです。自転車放置問題をどうするかとか。担任の先生の身になって考えてみろっていくら生徒に言ってもなかなか言葉だけでは考えないっていうんですね。だから実際にそういう役割を分担させて、ディスカッションしてその後演技させると真剣に考える。で、その校長先生が言うのは今言った世の中で必要なのは5つの能力が必要って言うんですね。ひとつがコミュニケーション。相手に自分の考えを伝える。相手の言いたい事、気持ちをしっかり聞く。コミュニケーションの会話の力。ふたつめはロジック。まああの、筋道立てて考える。これは数学につながる。今いったロールプレイング。これは色々な立場を考えていけば社会科につながる。あとはシュミレーション。こうしたらこうなるだろう。結果を予測する。こういう変化があったらこういうふうに変わるかもしれない。これは科学とか理科につながる。あとプレゼンテーション。自分がやりたいことをわかりやすく伝えて仲間を増やす。これは体で表現するとか絵で表現するとか形で表現するとか音で表現するとか。こういうことも全部含まれる。この5つが必要なんだと。
聞き手 今まさに学校で足りないことを教えてくれるようなことって学校に望まれているのかもしれないということですね。
笹木 そうですね。