聞き手 最近、福井の商工会議所でも面白い取り組みが始まっているという話を番組でもしていたんですが、直接行ってお聞きになっていたみたいですね。
笹木 今度10月の下旬に商工会議所がいろいろ企画をして、「苦情・クレーム博覧会」というのをやるということです。いろいろな買った物とか普段使っている物、そういう商品についての「ここが不便だなあ」というクレームとか苦情ありますよね。これを集めて博覧会をやろうという、そういう企画ですね。
「苦情・クレームを買います。売って下さい」
で、そのクレームとか苦情を言うだけじゃなくて売ってくださいと。商工会議所が中に入って、その苦情とかクレームを企業に買ってもらいますと。だからいいクレーム、いい苦情だったら、単にいいっぱなしで終わるんではなくて、それに賞金があたりますと、そういうことですね。で、6月の初めからその博覧会に向けて、ビジネストレジャーハンティング、まあ商売とか仕事の宝を探す事業というのを準備事業として始めたということです。これは今言ったような商品についての色々なクレームとか苦情を全国から集めると。もちろんFAXとか電話でもいいんですが、インターネットで集めるということで、6月の初めから始めて8月末までの期間で2000件くらい集めたいということで全国に呼びかけたらしいんです。そうしたら反応がすごく多くて、1日でだいたい60件来ていて、2000件目標だったんですが、7月の20日過ぎにはもう2400件ぐらいになっているということです。ですから8月末にはかなり、この1.5倍くらいなるんですかね。そのぐらい集まりそうだという事です。ひと昔前のように、何か物を売った時、お客さんがたまに寄せるいろいろな声、「ここがこうなったらどうか」とかクレームに対して「うるさいな」とか「その値段でそこまで要求するなよ」とか思っていると、結局ぜんぜん商品改善されない。それをむしろ、そうじゃなくて、そこに新しい金儲けの、商売のヒントがあるし、宝があるんだということで、トレジャーハンティングと名前を付けたんでしょうね。
例えばケータイ、メガネ
考えてみますと私なんかも、そういわれてみるといっぱい不満を持っているわけです。例えば携帯電話。私は移動の時間が結構多いので、ほとんどの場合システム手帳もメモ帳も何も持たずにこれひとつしか持っていないんです。
聞き手 最近は携帯でスケジュール管理も全部できますもんね。
笹木 でも実際に使っていますと、スケジュール管理のところでそこに書き込めるメモの欄というのは字数が非常に少ない。だからすぐ詰まってしまって、一杯ですと。登録件数が一杯です。字数が一杯です。これかなり不便だなと。こういうのもあります。全体の中でこのスケジュールの字数に使える部分をもっと多くしてくれれば、他の部分はあまり使っていませんから、電話のアドレス以外では。だからそんなこと考えている。例えばこういう苦情を出す。そうするとそれが携帯電話を作っているメーカーにとっては、じゃあどうしようかというヒントになると。実際募集で集まっているのを見ますといろいろ面白いのがあるわけです。インターネットで募集できるということがあるんでしょうが、集まっている比率としては20代の方、30代の方が圧倒的に多いんですね。20代の方が全体の35%ぐらい、30代の方が35%ぐらいで、まあ両方で70%超えているわけです。ですからそういう層から色々な意見が出てきて、内容は仕事での不便とかクレーム情報じゃなくて、生活上でのいろいろな商品とかそういうもののクレームが多い。で、女性がやっぱり多くて60%ぐらいです。この間、生活の問題とか環境とか食品とかそんな話していましたら、ある女性が「男性は生活していない」という話をしていましたが、確かに男性は会社にいる時間が多くて、生活用品については女性の方が色々イメージがあるということなんだと思いますが、若い20代30代の女性の方からの応募がたくさんあると。その中に、こういう苦情がありました。これは年代的にはもう少し上の方からかもしれませんが、この福井で眼鏡とか眼鏡枠というのは全国の中で非常にシェアが高いといわれます。私は眼鏡を使わないですから分からないんですが、夜寝る時に新聞とか雑誌とか本を読みながら横になっているとそのまま寝てしまう時があると。で、起きてみるとぐにゃっと曲がっている。そういうことはありえますか?
聞き手 ありますね。
笹木 そういう場合はどうするんですか?
聞き手 そうなると眼鏡屋さんに持って行って、ちゃんと直してもらうか、あとは自分で一生懸命直すか。曲がったままかけていると乱視のもとになったりするらしいです。
笹木 そうですか。だからそれについても、じゃあ例えばこうしたらどうかということも含めて提案するとなおいいということですね。
苦情、クレームを「うるさいな」と思うか「チャンス!宝だ」と考えるか
博覧会というのは結局どうするかっていうと、こういう物を全部集めておいて、企業の人に博覧会にインターネット上でも会場でも参加してもらうんですが、入場券として500円払って5枚のチケットをもらう。投票券ですね。5枚分もらう。自分がその色々なクレームとか苦情とかをずっと見ていって、これはなかなかいいなと思うとその投票券のうち何枚かをそのアイディアに投票すると。その投票券は一枚あたり100円ですから、仮に100件あったらその苦情を出した人は一万円もらえると。これが1000件仮にあれば10万円もらえる。それが博覧会です。ですから苦情を商工会議所が中に入って買って企業に売るという、こういう事業ですね。で、非常に面白いと思いますのは、元々どんなサービスも商品も買った人の身になって考えるはずなんですが、つい作っている側の、今非常にコスト競争も激しいですし、人手もなるべく少なくするとか、より安くいいものをと頑張って作ったと。しかしいろいろ苦情が来ると「まだそこまで要求するのか」と思ったりするわけですが、その苦情にさらにいい商品のヒントが隠されているからこれを福井としてどんどん集めようと。
福井はつくる技術はすごいが、売るのが下手?
これが単にひとつの企業にとって大事というだけではなくて、この番組でも青山に青山291という福井県が作ったものを東京の人に直接PRする、宣伝するための場所を作ったという話をしましたが、福井県全体が「作るのはすごくうまいけれども売るのは下手だ」って、これ最近よく言われていますよね。確かにコシヒカリも福井で開発された。繊維なんていうのはおそらく世界一でしょう。染めたり織ったりする技術は。デザインはイタリアとかフランスとかいろいろ強いところがあると思いますが、染め織りは世界一だろう。しかし実際にそれを売るということが、コシヒカリでいうとなんとなく新潟が作ったようなイメージ持たれていますし、繊維も技術は世界一だけれども、かつてはメーカーに作った製品を渡しているだけが多かったですから、最終の消費者に直接売っていなかったこともあるんで、作るのはうまいが売るのが下手だと。これ結局何かというと、産地全体、福井県全体として、買った人からの、簡単に言うと苦情とかクレームとか提案とかを受け止めてやり取りする、そういうことが非常に少なかった。ここを強くするために一企業じゃなくて商工会議所がかなり力を入れてこれを始めているということですね。
聞き手 しかし商工会議所が音頭をとるということは素晴らしいことですよね。
笹木 そうですよね。しかしこれをちょっと他の分野に目を向けて、行政サービスあるいは政治と比較してみると面白いわけですが、商品が行政に対しての税金かもしれませんし、あるいは選挙での投票かもしれません。買うというのが税金を払うとか投票するということですよね、一般の県民、国民にとっては。税金払った、投票した。これで買ったということです。そのあと商品、まあ行政サービスであったり政治の色々な活動であったりするわけですが、色々不満をもっていても、今の話と同じで、全く不満とか要望とか、どうなっているのというような声が届くようにはなっていない。
行政、政治サービスで考えてみると
例えば、今までお話した中で介護保険の見直し。ある地域では行政とNPOが一体になって、徹底的に今の介護サービスどこが問題かということで、もう泊り込みで15分刻みで家族の負担がどれだけ大変か調べ上げて、結局今までの介護サービス、厚生省の基準のどこがおかしいか実証した。これは言ってみればクレームを集めたわけですよね。この間安全な農業、安全な米ということで中国・台湾でも価格が4倍5倍でも買う人が増えてきたというお話しましたが、これも今までは中国・台湾はこちらより安いものを作るから商売敵だとだけ思っていたんだけれども、逆にそこにも新しい消費者がいて、輸出の相手として成り立つんだと。そちらの要望聞くと今までとは違ったお客さんがどんどん増えて来るんだということに気が付いたというお話もしました。だから多分これから行政サービスも政治も内向き、内側のこっちの活動の事情ではなくて、実際のサービスの受け手、行政とか政治の場合には国民・県民ですが、ここのクレーム・苦情をどれだけ受け止めて作り直せるか。商品、サービスは行政サービスや政策だと思うんですが、作り直していく時に、今までとは逆の方向、上からの垂れ流しではなくて、変えるために県民・国民からの声を集めて作り直していく。この流れを作れるかどうかです。この流れを作っている企業とか産地は発展するし、相変わらず何十年続いた商品だけを一方的に買ってくれよと言っているだけではだれも買ってくれなくてその企業は潰れていく。あるいは行政も政治もそういう行政・政治ではどんどん駄目になっていく。こういうことかなと思います。
聞き手 そうですね。行政にしてみても住んでいる方の要望を聞く耳を持っているかどうかで自治体のあり方が変わってくる。住んでいる側もちゃんと言えるようにならなくてはという所もありますね。
笹木 そうですね。だから結局今までの国民・県民は商品を買って、その後じいっと我慢していた。あきらめていて何も言えない、言わない。そういうことだったんでしょうね。
聞き手 そうではなくて思っていることを言う、あるいは税金がどう使われているのかちゃんと目を光らせる。おかしければそれに声を上げる。当たり前のことが出来ていなかった。その辺がいつもおっしゃる農耕民族たるゆえんかもしれませんが、そうではなくて時代は変わってきた。
笹木 我慢していると駄目だということなんでしょうね。