聞き手 この数年で我々を取り巻く環境がガラッと変わりつつあるという実感があります。サラリーマンの方なんかは特に感じていらっしゃるかもしれませんよね。
笹木 そうですね。今、広島の8月6日の記念日ですとか長崎8月9日の記念日とか、来週の敗戦の記念ということで、新聞で色々な戦争時の特集記事とか、そういう話が出たりしています。考えてみると、イラクは戦争で負けて、今アメリカによる統治というか占領が行われているようなものです。
そんな中で、日本もよく今、第3の開国いわれますが、第2の開国というのは敗戦の時に、外からの占領で国を開いて、強制的に色々な制度とか習慣とか色々な社会の決め事も変えたということです。
ちょっと思い出すんですが、私が学生の頃とか、あるいは高校時代からよく名前を聞いたりしましたが、丸山真男さんという、戦後の日本の論壇というか学者の中で一番有名な方だったんですが、その方がこの敗戦で日本の民主化、その後、イラクでも起こっていますが、これは無血革命だって言われていたんですね。
それぐらいそれまでの軍部がかなり暴走した時に比べると自由に、民主主義になったし、大きく変わったわけですが、しかし考えてみると、今のイラクに即してみても、確かにフセインはいなくなっていいことですが、外から攻められて占領されて変わっているという、これを革命といえるか、無血革命といえるか。今から考えると、この丸山真男さんの言っていた、敗戦で占領による民主化は無血革命だというのはちょっと乗りすぎというか軽かったんじゃないかなという気がするんです。
まあちょっと難しい話になりましたが。とにかくこの敗戦、占領で民主化になった。これが大きい変化で、それからはもう豊かになる、それに専念したとよく言われます。
よくこの戦後スリーエスになったというんです。第2次大戦後負けてから。ひとつ目のSがスクリーン。映画のハリウッド文化です。ふたつ目のSがスポーツ。野球ですとか大リーグですとか、そういうスポーツですね。3つ目がセックス。スリーエスのアメリカ文化がどんどん入ってくるようになった。
自由で民主主義だということで、もう豊かになる、それに専念する。これでずっと、言ってみれば戦後の復興は専念してきたという感じですね。実際成果も非常にあったんでしょう。70年代の終わりとか80年代にはJAPAN AS No.1と言われました。シンガポールとかマレーシアはLOOK EAST。これは日本のことですね。日本を見習えと。そういうことを言っていたわけです。非常に成功して、特に70年代の終わり、80年代には韓国・台湾・シンガポール・マレーシア・タイ、こういう国も日本にどんどん追いついていこうということで、まあ豊かになる競争では、日本が優等生だったんだと思うんですね。
さらにそれが追い討ちかけるように大きい変化が、よく言いますが、1989年からの第3の開国、これが今ですけれども、ひとつはアメリカがもう日本を経済的には保護しなくなった。それともうひとつは社会主義の国がなくなった。北朝鮮とかキューバとか一部を除いて、もうほとんど社会主義の国がなくなった。今までは社会主義は一応資本主義みたいに豊かになること、そういう路線は取らないと言ってきたわけですが、これからは社会主義の元社会主義の国も全部豊かになる、自由主義、資本主義の競争をするということになったわけです。
日本としてはこの豊かになる競争の優等生だったわけですから、これからいいことばっかりかというと逆になりまして、社会主義の国が捨てたわけですから、よく言われますように、日本の近くでいうと中国、あるいはインドの影響。日本よりずっと賃金が安い国。これが10億人以上いるわけですが、ここで作る日本よりも安い物がどんどん入ってくるようになった。
考えてみると日本が戦後復興で優等生だったのはアメリカとかヨーロッパよりも賃金が安い。だからアメリカとかヨーロッパにあるような商品を安い賃金で安く作れると。これで優等生になってきた。これがもう今成り立たなくなった。もう日本はそれでは勝負できなくなった。中国とかインドがどんどん出てきているということだと思います。
で、ここでどうなのかということなんですが、今までと同じ路線をとっていても通用しない。もうひとつ深刻なのは、よく今構造改革とか経済の仕組みを変えるとか役所の無駄、税金の無駄をなくすとかよくいっていますが、これは大事なことですが、その優等生はどこだろうと。
政治とか行政の無駄遣いをなくすという優等生でいうと、シンガポールという国があります。これはもう経済の構造改革、世界で一番速くやる国です。ものすごく豊かです。しかし今シンガポールの国は社会としてのまとまりが非常に持ちにくくなってきて、言ってみればショッピングセンターみたいなもんなんですね。自らの国内ではあまり食物もエネルギーも作っていない。なんでも世界中から輸入して、色々な商品に満ち溢れている。しかも安い。役所の無駄も無い。構造改革も進んでいる。もう便利で効率がよくて、ショッピングセンターみたいなんだが、社会としての、国としての個性がない。
昔マレーシアからこのシンガポールは独立したわけですが、今またマレーシアと一緒になろうかというような意見をいう人がかなり増えているんです。もともとの文化的ないろいろな伝統とかをもう一回見直さないと、もう国としてまとまっていない。どんどん中国にも人が出て行ったり、そんな状態になっています。
あともうひとつは、こういうガラッと変わってきて、世界中が大競争の時代になると、戦略を持っていない、特徴をもっていない国は大きい企業によってずたずたにされてしまう。以前ちょっとお話しましたが、例えばコーヒー、経済の中で非常に、コーヒー豆が生産の比率が非常に大きいタンザニアという国。これはこの10年でGDPが1/3に下がっているんです。これはもうグローバリズム、世界中の経済は境界がなくなった、国境がなくなったといいますが、それはもうでっかい企業が、一つの国の経済もどんどん左右できる。潰すこともできる。そんな時代です。
ですから、戦略がない、個性がない、そういう国はひとつの大きい企業によって、ズタズタにされて、GDPも1/3になってしまう。あるいは優等生なんだけれども、個性がない。そういうようなまとまりがない国は、ショッピングセンターのようにいつ人が出て行ってしまうかも分からない。そんな状態になっています。
聞き手 そういえばソウルオリンピックが終わった後の韓国でも、一時期非常に経済的に困った時期がやってきた。これだって考えてみると経済の流れの中で翻弄されてしまって、ひとつの国では抗いきれないものがあってということもあったように聞いていますし、恐ろしい時代になってきているんですね、気が付かないだけで。
笹木 そうですね。そんな中で一番戦略をもって、しかもでかい企業がいっぱいある国はアメリカなわけですが、アメリカはその力と企業のでかさで世界中の国に攻めてきている。日本も例外じゃないんですが、その中で例えばヨーロッパ。ヨーロッパは今、第3の道ということでよく言います。第3ってなんだ。ひとつはアメリカ型ですね。アメリカのような国。もうとにかく豊かになる。
さっきスリーエスといいましたが、自由と民主主義で、豊かになる、もうこれだけでどんどん行く。貧富の格差はどんどん大きくなる。やっぱりこれは嫌だなと。ヨーロッパの国は違うのを目指したいと。しかしだからといって昔のソ連みたいに、社会主義っていってもあれはちょっと貧乏になりすぎてしまうなと。これも駄目だ。第3の道を目指そうと。で、ヨーロッパ全体がもう東ヨーロッパも南ヨーロッパの国も一緒になって、大きいヨーロッパの共同体を作ろうと。第3の道と言っているだけです。まだ具体的にどう違うかっていうのはあまりはっきり見えていません。
聞き手 要するにアメリカ型もソビエト型も嫌ということまでしか分かっていない。
笹木 そうですね。まあそんな状態ですが、じゃあここで日本が、今8月15日が近づいて、しかも今第3の開国で激変の中で、じゃあどういう個性を、どういう戦略を持てるのかって考えてみますと、この間イラク戦争もありました。戦争とか軍事とか北朝鮮の問題もありますが、やはり軍事というのは避けて通れませんから、じゃあ日本はこの軍事ということ、外交を軍事ということで考えるとどういう特徴を持つべきなのか。
よく憲法で専守防衛といいます。憲法で攻めないといいますが、専守防衛、じゃあ本気で考えているだろうかということです。他国から攻められたときに、それを守るためにしか武力使わない。これ突き詰めていきますと、アメリカが守ってくれるから、という話を以前にしましたが、じつはお粗末な話があるんです.
現状では例えば北朝鮮で何かがあった。急に戦闘機が飛び出したと。これもうNHKのニュースがあってから10数分後にしか防衛庁と外務省は首相官邸に通報できなかったんです。これで、今核兵器の時代で、仮に日本に近い北朝鮮がそういうことをやったら日本まで5分以内で届くと。こんな10数分後に初めて防衛庁がニュースの後で通報している状態で防衛なんかできっこないです。
アメリカが守ってくれていると思っているからこういうお粗末な状態で済んできた。じゃあ専守防衛に徹する技術ってどういうものか。やっぱり情報収集衛星。あるいはミサイル迎撃。攻めてきたミサイルにとにかく的中させてこっちに来ないようにする。この技術はおそらく世界一にしないと専守防衛ということもありえないんでしょう。
あるいはよく共生っていいます。共に生きる。日本は宗教戦争が世界中で一番歴史的に少なかった国です。今イスラムとのいろいろな衝突の話がありますが、じゃあそういうイデオロギーとか宗教対立とかそういう戦争が少なかった歴史を持つ国の考え方とか文化とか宗教とかどういうものか。ここらへんがやっぱり一つの個性かも知れません。
あるいはエネルギーもなくって資源まったくなくって、人材だけが財産の国ですから、やっぱり教育とかこれについては歴史的な蓄積はすごくあるし、幕末でも世界で一番の一等国だったイギリスよりも読み書きそろばんは全国民に普及したといわれますが、こういう学ぶいろいろなノウハウですね。これも個性かもしれません。あと、環境、公害防止の技術は世界一のレベルにあったといわれますが、環境面での貢献。まあいくつかあるわけですが、これをどう国とか社会の目標にできるか。ここらがひとつかなと思ったりするわけですね。
聞き手 なるほど。話の途中に出てきましたが、専守防衛の難しさというのは、常識的に考えてもすぐわかると思うんです。ボクシングでもプロレスでも相手が殴ってきた時だけ殴り返すなんていう事ができる選手は超一流の選手ですよね。
笹木 しかもものすごく敵のことが分かっていないと。敵よりもこちらに情報がないとできませんよね。
聞き手 数段力が上でないとそんなことはできませんよね。相手が殴ってきた時だけそれに応戦していいというルールなんて、あらゆるスポーツでありえないわけです。スポーツと戦争を一緒にするつもりはありませんが、それぐらい難しいことだという例に引いているわけですけれども。こんな事を考えるとどれだけ矛盾してきたことをいってきたかということがよく分かります。
笹木 そうですね。とにかく第2の開国は外からの強制でされたと。よくいわれるのは第1の開国の幕末は内からの革命でなったと。ひとつ是非皆さんに憶えておいていただきたいのは、明治国家で五箇条の御誓文というのがありましたが、「万機公論に決すべし」とかありましたが、これは福井からこの明治のビジョンというのはつくられているんです。
横井小楠、由利公正、坂本竜馬、この流れの中で、坂本竜馬はよく福井にきましたが、由利公正とか横井小楠がこの「万機公論に決すべし」の元々の叩き台も作っていますし、第1の内からの革命では、この福井が最初のいろいろな叩き台を作った。
だから今第3の開国でもう一回自ら、内から変わることが求められている。福井人ももうお上に依存とか、アメリカに依存とか、あるいは中央に依存とか、もうこれじゃなくって、激変して、個性が求められているんで、地域で世界に求められていること、日本に求められていることを仕掛けていけるかどうかです。これが第3の開国で問われているのかな、そんな気が今敗戦の色々な記念の新聞を読んでいまして、記事を読んでいまして感じているんです。
聞き手 なるほど。第3の開国というと分かるような気はするけれども、ちょっとピンとこない。幕末の頃の鎖国を解いた時は、万民に今時代が変わるという事がわかっていたでしょうね。戦争が終わったという時もみんな分かっていて、全く昨日と違うぞということがはっきりしていたでしょうけれども、今1989年に第3の開国を迎えました、マルタ会議から開国が始まったんですよっていわれても全くピンと来ない人が多いんじゃないかなという気がします。その辺りのところを理論的に納得できたなら、もうそこにいるんだという認識をはっきり持つことがきっと大事なんだろうと思います。
笹木 今のこの経済の大変さ、失業の高まり、いろいろありますが、もとの原因はここなんです。そこをやっぱりはっきりわかっていかないといけないし、伝えていかないといけないんでしょうね。
聞き手 もうひとつ大切なのは、笹木さんがおっしゃったように、福井は本当に個性のない地域になってしまっているという実感があります。これもやっぱり認めなくてはいけないと思うんです。
小学生に聞いたらどこにあるか一番分からない県だったとかということを嘆いているだけではいけない。例えば、北海道には何がある。広い大地がある。ヨサコイソーランが生まれたとか。あるいは徳島には何がある。阿波踊りがあるとか。なにかそういう個性のあるもの、特産品、お祭り、こういった物でじゃあ福井には何があるって言われた時に、なにか他の地域と似たり寄ったりの物がいくつかあるだけで、ということではいけないのかなと思います。
もともと何があったのかっていうことをもう一度見直してみていいんじゃないかなという気もします。自信取り戻すことも大切なことですね。
笹木 そうですね。まず自分からさきがけで新しいことに挑戦していくって事でしょうね。さっきのヨサコイもそうなんでしょうが。