聞き手 この間、笹木さんから教えてもらった市民バンク。これ、なんなのか。言葉だけ聞くと、市民を貯めてあるのか、市民のための銀行なのか、そんなふうにお感じになる方もおいでになるかも知れません。
笹木 市民が、要は自分が社会でこういう問題があるなとか、それを解決していきたいなと、そういう夢を持つと。そういう市民に専門で融資をしていく、お金を貸してあげるというバンク、銀行ですね。
聞き手 本来は普通の銀行が、何か必要なお金があればお貸ししましょうっていう、そういうのが本当ですよね。
笹木 そうですね。本来はそういうことだったんだろうし、ちょっと前、20年か30年くらい前はそういうこともあったんでしょうが、今銀行も不良債権の問題があるとか、なかなか土地とか不動産の担保以外で判断して貸すということがなかなかできない。だからお金が詰まっているわけです。そんな中でこういう個人が、市民が、あるいは市民団体が、社会的な、かなり意味がある事業をやる。
そこ専門に貸すという別のバンクを立ち上げた、片岡さんという県外の方ですが、この方が15年前からこの市民バンクというのを立ち上げて、だいたい15年間で100件ぐらい、今言ったかなり公共性があるというか、社会の問題を解決するような公益性のあるというか、そういう団体とか個人にお金を貸すと。100件に5億5千万円、一件あたり500万円程度の小規模の事業ですが貸してきている。これすごいと思うのが、この市民バンクは貸し倒れ率がゼロなんです。
聞き手 そうなんですか。あ唐突に片岡さんというお名前が出てきましたが、ちょっと補足しておきますと、もともとはこの方銀行マンだったそうです。銀行をお辞めになって、その退職金で世界中あちこちお歩きになった経験もある。日本帰ってきて何しようかってお考えになった上で、この市民バンクの活動も始められたという方ですね。
笹木 そうですね。40歳ぐらいまでは結構有名な都市銀行にいて、辞めて今のお話にあったように世界中を一年ぐらい回ってきて。私はちょうどその頃知り合いまして、ODA、政府の開発援助ですね。途上国に対する援助、これが日本は世界一の額だけど、当時ですが。今もトップレベルですが。相手の国にあんまり喜ばれていないんじゃないかと。この実態調査をやろうとか、そんなことで知り合ったんです。
だからこの片岡さんは、銀行を辞めて、どちらかというと途上国に対する運動ですね、協力というか、そこから始めたわけですが、そうするとやっていく中で、いくらその国の援助とか、それがこう悪いよとか、こうしろとかって言っても、批判していてもむなしいと。だから自分が実際に第三世界ショップというのをまず始めまして。
例えばハイチ。非常に貧しい国だと。これは結局雇用を生むような産業がない。コーヒー豆はあるんだけれども、以前もちょっと違う国の例をいいましたが、アメリカなんかの巨大な食品会社が中に入っていると、がっぽり途中で取られてしまって、生産者にはお金、ほんの少ししか落ちてこない。だからこのハイチから直接日本に、無農薬とか無添加とか、そういうコーヒー缶を作ってもらって日本に入れると。まあ産直ですね。第三世界ショップと日本の産直。これを始めて、今年間6万本入れている。こんなことをやっていた方です。
そういうことを第三世界でやっていたわけですが、国内を見ても地域で色々な問題がある。環境の問題もあるし、子育ての問題もある。教育もある、福祉の問題もある。行政のサービスをみていても、行政のサービスだけでは限界がある。全部税金で見るとなったら、これ本当に莫大なお金がかかってくると。だからこれを行政がやっているサービスよりももっといいサービス、福祉でも介護でも子育てでも環境でも。もっといいサービスを民間でやる必要があるということで、この市民バンクというのを10年前に考えたということです。
聞き手 今や5億5千万円貸しているけれども、貸し倒れなし。
笹木 すごいことですよね。そこでこの片岡さんが言うのが、銀行と違ってうちは融資をするかどうか決める時に、もちろんたくさん応募があって、かなり厳密な審査をするわけですが、夢と応援団だというんです。
聞き手 夢と応援団。担保になる土地建物ではないんですか。
笹木 担保というか、判断は夢と応援団だと。
聞き手 どういうことですか。
笹木 作文を800字、短い作文ですが、800字の作文をまず書いてもらう。これでだいたい伝わると。どのくらい本人が強い夢というか情熱を持っているか。これがひとつ。もうひとつは強い夢とか情熱を持っていてもそれが単なるボランティアではなくて、事業としてずっと続けていけるかどうか。それと最低限の採算といいますか、もう毎月赤字だったら、もうそれは続かないわけですから、最低限の採算をクリアできるかどうか。
これはやっぱり応援団だというんですね。付き合ってきた人が本当にその人を真剣に応援してくれるか、そんな友人というか知り合いがどれくらいいるか。これがふたつめの判断基準だと。これがいればその人はお客にもなってくれるし、まあいってみれば保証人的にもなってくれる。その事業のボランティア的な手伝いもやってくれるし、口コミのPRもしてくれる。このふたつをまず判断にして、夢と応援団があればOKと。
そこでOKになった人に今度は、経営的なノウハウといいますか、最低限の経営的な技術・知識を教えるんだと。これが市民事業ビジネススクールというのを主宰していて、そこで事業計画書の作り方から全部教えていく。こんな流れをやっているわけなんです。
まあこれが非常に面白いなと思うのが、今お話したのは片岡さんっていう、どちらかというと運動から入って、融資活動、で、融資だけではなくて実際に投資も募りまして、女性に対していろいろ新しいビジネスをやろうとしている人に投資を募るということで、これも一ヶ月で6000万円ぐらい、ちょっと前に集めたというわけですね。まあそんなことのお金の流れを作った方です。
一方で、DELLコンピュータ、インターネットですごく安い価格でコンピュータを販売して急成長したアメリカのコンピュータの販売会社ですが、これの日本支社長が言っていましたが、結局その新しいビジネスセンスというのはどこにあるか。で、お客さんが何か不満を感じている、あるいは不安を感じている。これはもう必ずそれがビジネスの新しいネタ、ビジネスチャンスになる。新しい市場になるんだ。
そこで具体例を言っていたんですが、例えば商品、コンピュータを買って、そのクレーム処理とかはよくコールセンターとかで外注しますよね。私なんかもよく携帯について、何か分からない事があって問い合わせすると、あんまりよく分からない方が出てきて、これだいたい社員じゃなくて、外にコールセンターで外注しているわけですが、そうするとなんか僕よりも分かっていないなというような人が出てきたりするわけです。DELLの場合には全部社員が対応すると。お客さんからの、これどうなっているんだ、使い方分からないというのは全部社員が対応する。で、一応80%をクリア、というのは一回目の電話でだいたいお客さんがなるほどと分かったと。
クレームとかに対してだいたい満足してもらうのを一回の電話で80%をクリアするのを達成したと。しかしそれだけではまだ足りないので、もっとよく考えると、電話をかける前にマニュアルを何回も読んでいるかもしれない。マニュアルがかなり分かりづらいんで、何回読んでも分からないので、それで電話をかけているのかもしれない。そうするとこのマニュアル本から初めて、そこにまた新しいサービスを考えていくとこれがビジネスになるかもしれない。だから不満とか不安が新しいビジネスだと。
片岡さんの言葉で言うと、社会にある問題が、矛盾が新しい事業のネタだと言っていますよね。あるいは他のベンチャーの旗手といわれる方が言っているんですが、これから個人が夢を描いて、今までなかった職をつくれるかどうか。そんな人間、個人が増えるかどうかが日本経済が本当にベンチャーが増えるかどうか、あるいは活力が出てくるかどうかのポイントだと。これはベンチャーの旗手といわれる方が言っているわけですが、市民運動的なところから始めた人の、今この市民バンクの創設者のいっていることも、ベンチャーの旗手といわれる方とか、今非常に伸びている会社のコンピュータ会社の経営者の言っていることとだんだん似てきているわけですね。
聞き手 先日、笹木さんのお話に出てきた、例えば福井商工会議所も不満、不安買い上げますよということを言っていたりしますよね。
笹木 そうですね。苦情・クレーム博覧会ですね。自分で見て、自分でそれを事業化していくような、そんな個人が増えるかどうかということなんでしょうね。
聞き手 今までは大企業に入っていれば安心していられるというような時代だったんでしょうけれども、そうじゃないというのがもう個人にも見えてきています。
笹木 そういう方みんな共通で言われるのは、この50年間日本は高度成長で、しかもどちらかというと大企業を中心に雇用が、しかも生涯保証されていたから、もう雇用は大企業でというのが刷り込まれているというんですね。その世代を経験している人は。しかしこれからはそうじゃなくて、自分で自分を雇う。自分で事業を始める。そんな大規模じゃなくていいから。そういう個人が増えるかどうか。それが社会を変えていく。
高度成長時代には、たくさんの資本金を持っているとか、たくさんのシェアを誇るとか、占有率を誇るとか、こういうものが時代を変えてくといわれましたが、こんな言葉が最近よくあるんです。北京の蝶々がアメリカでのハリケーンをおこすと。本当におこしているかは分かりませんが、複雑系の経済理論でそういうことが言われるらしいんです。だから大きいシェアとか大きい資本金、ここがドンと変えるのではなくて、蝶々の羽ばたき、そういうたくさん羽ばたきをする蝶々が増えていくことで社会が根本から変わると。
これからの社会の変わっていく原理もそれなんだろうとよくいわれるんですね。だから銀行がなかなかお金貸さないとか、貸すときには個人保証も第3者保証まで求める、こういう制度も変えないといけませんが、夢をもってそれを具体的に事業化していくとか、実現していくしつこさを持つとか、そんな個人が増えるかどうか、ここが一番やっぱりポイントなのかなと思ったりします。